あの日、東大に落ちた私へ④神と私の距離

2学期が始まった。
相変わらず、予備校に行かない選択をした私は、その分、授業をきちんと聞くようにした。
授業中に漫画は読まない。
席を選べる授業は先生の目の前をとる。
放課後は「秘密の部屋」で学校が閉まるまで勉強する。

成績は自分でも驚くスピードで伸びていった。
秋の実力テストの数学は100点だった。

答案を返す前に先生から「今回は100点がいます」と大々的に言われ、自分の名前が呼ばれる。
お調子者だった私は「っしゃーーーー!」とガッツポーズで立ち上がり答案を受けとった。

1教科でも崩れると、全部崩れそうだったから、音楽とか体育とか、実技科目の試験対策もきちんと取り組む。
「全てのことに全力で」を自分のキャッチフレーズにしていた。
とにかく、前に進むしかない。


秋の東大模試の会場は予備校だった。
まだ合格ラインには届かないが、自分と東大の距離感は分かるようになっていた。
模試が終わって、ざわつく廊下に出る。
知らない人でごった返した廊下を牛歩で進んでいると、突然名前を呼ばれた。

「サナちゃん・・・?」
「神!」

振り返ると、学年1位の秀才・神崎さんがいた。
名前と、成績、そしてどこか達観した雰囲気から、みんなから「神」と呼ばれていた。

神は小柄で細身、そして霞がかったような声で、つぶやくように話す。

「サナちゃんも東大受けるの?」
「うん」

神はまっすぐ私を見つめた。
少しだけ、距離がある。

「そっか。うちの学年からは私だけだと思ってた」

うちの高校から東大に行くのは、毎年1人いるかいないかだった。

「一緒に、頑張ろうね」
「・・・うん」

それ以上共通の話題もなかったから、そそくさと予備校を出る。
バスを待つ風は、もう秋になっていた。

そうか。東大って、神クラスの人が受ける大学なんだよな。
神と会ったことで、今まで「名無しさん」だった自分以外の東大受験者たちが、急に具現化したのだった。

――――1年生から学年トップを守り続けている秀才。
自分とは違う存在だと思っていた。

でも、神に並ばなければ、合格できない。

バスに揺られながら考える。
神の隣まで、あとどのくらい?

――――――――――


神は3年間同じクラスだったんですが、この時まできちんと話したことはなかったんですよね。
ただすごく覚えている光景があって・・・。
高校1年生の序盤、私が「授業についていけない」と初めて感じた授業後の休み時間、神は先生に質問していたんですよね。
あの頃から東大目指してたのかなぁ。
今、神との交流はないんですけど、今会えるなら、あの頃話せなかった色んなこと、話してみたい気がしますね。
「私のこと、無謀だと思った?笑」とか。


始めから読みたい方はこちら。
①始まりは魔女の家
②誰もいない教室で
③秘密の部屋を手に入れた

続きは今後更新します。
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