あの日、東大に落ちた私へ⑤〜閑話休題・約束の場所〜

「サナちゃんさ、魔女の家いかない?!明日の放課後」


高校3年生の夏休み2日前。
私にそう持ちかけたのは、斜め後ろの席に座る、るーちゃんだった。


「魔女の家ってなに?w」
「占いだよ・・・!めっちゃ当たるって!!」
「えー!そうなの!やってみたい。でも好きな人もいないし占ってもらうことない!」
「私は受験について占ってもらおうと思って」
「それならいいかも!」


るーちゃんは1年生の時に、前後の席で、それ以来の親友。

学校帰りに、映画「ロード・オブ・ザ・リング」を見に行ったり。
お小遣いで行ったケーキの食べ放題で、無限に食べられると思っていた甘いものにも限界があると知ったり。

高校になって体験した「初めて」には、大体全部るーちゃんがいた。


るーちゃんは言葉の使い方が上手くて、とにかく面白かった。
台風で休校になるかどうかで、結局逸れた時。
るーちゃんが「台風!あなたには失望しました!!」と叫んだ時には涙が出るほど笑った。

3年間、私たちは大体いつも一緒で、気づけば揃って落ちこぼれていた。

ともに赤点をとった時には「赤点戦隊 リュウネンジャー」を結成。
るーちゃんが隊長でレッド。
大人びた同級生は「お色気パープル」など。
ちなみに私は「ハレンチピンク」で、次期入隊者はスケルトンだった。


落ちこぼれてたけど、あの頃の私たちは無敵だった。


魔女の家からの帰り道。

「サナちゃんは、地元の大学にするの?」
「迷ってるよね?って魔女に言われた」
「迷ってるの?」

私が公にしている志望校は、1年生の時からずっと地元の大学だった。


「あのさ・・・実は私、東大受けたいなって・・・思ってるんだよね」


東大を受けたいと、初めて人に言ったのもるーちゃんだった。


「そうだったんだ!てっきり地元の大学かと思ってた」
「るーちゃんはどこにいきたいの?」
「私はお茶の水女子大」


あんなに一緒にいたのに、るーちゃんの志望校を聞いたのは初めてだった。

「・・・結構、がんばんなきゃね」


どちらともなく、言葉が出る。
私たちの間には、今までなかった種類の、沈黙。

「あのさ、私、夏休みは学校で勉強しようと思う。・・・るーちゃんも、一緒に勉強する?」


夏休み、私が教室を手にいれると、る−ちゃんも来るようになった。
斜め後ろの席のるーちゃんと、何も話さず、黙々と勉強を進める。
でも、昼休みの40分間だけは、おしゃべりの時間。

残暑、というにはピッタリの、少し陰った夏の日のことだった。

「お茶女ってさ、どこにあるの?」
「文京区ってとこみたい」
「え!?東大も文京区なんだよ!」
「そうなの?もしかして近所なのかな?」

地図帳で見てみたら、東大とお茶の水女子大は同じ文京区にあることが分かった。
距離もかなり近そうだ。

「受かったら文京区でルームシェアしようよ!」
「るーちゃんと暮らしたら絶対楽しい!!」

矢沢あいの「NANA」をバイブルにして高校時代を過ごした私たちにとって、親友とのルームシェアは憧れだった。

行ったこともない「文京区」。
そこが、私たちの約束の場所になった。

一緒に暮らしたら、連絡事項を書く黒板をおこう。
鍋パーティーをしよう。

昼休みの教室で、計画はどんどん膨らんで行った。

「何で、そんなに盛り上がってるんだ?」

出席簿を抱えた牛込が、廊下から覗き込む。

「将来について話してました〜」

廊下に向かって叫んで、キャハハと笑う。

あの頃、無敵だった私たち。
「文京区」までだって、きっと一直線だと思ってた。


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一緒に住んで鍋パをしよう。
今思うと、夢物語みたいな幼い発想だけど、あの頃はそれが私の原動力だったし、実現できるって信じてました。
きっとるーちゃんも、そうだったよね?


続きは今後更新します。
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今回文章にして初めて気付いたんですが、我々「文京区」って地名で話してたんですよね。
最寄り駅じゃなくて。
あの頃の、まだ東京を知らない、東北の高校生だった自分たちを感じて興味深かったです笑。